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プロフィール
1971(昭和46)年浜松市生まれ。静岡県立浜松北高等学校、東京大学教養学部表象文化論専攻卒業。大学在学中に自主映画『悲しいだけ』が「ぴあフィルムフェスティバル94」に入選。大学卒業後、ロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)の監督コースに留学し1999(平成11)年に帰国。2003(平成15)年、怪奇ドラマ『怪談新耳袋』シリーズで監督デビュー。以降、映画やテレビドラマの監督、脚本などを手掛け、2010(平成22)年「ソフトボーイ」「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」発表。
土地の魅力は、そこに暮らす「人」がポイント!
情報BOOK■大学在学中から自主映画を製作していたそうですが、映画に興味を持ったきっかけは?
豊島■東京で自分の映画が上映された初日に、中学生くらいの男の子が劇場に来て、一人で映画を観て笑って、パンフレットを眺めていたんです。「きっといろんな映画をハシゴして観ているんだろうな」。そんな彼の様子は昔の自分を見ているようでしたね。
私は幼いころから映画好きな叔母に連れられて映画館に行くことが多く、映画が自然と身近なものになっていました。当時の浜松には東映とかスバル座などの映画館があって、西武百貨店の階上でも映画上映をしていて、ヒッチコック映画を観に行ったことを覚えています。
映画を観ていると、浜松に居ながらにして、新しい世界を発見できてわくわくしましたね。私にとって映画は外の世界にアクセスするツールという感じ。「とにかくあらゆる情報をめいっぱい映画から浴びたい!」そんな想いで、映画情報誌を片手に映画館に通っていました。
だからこうして、昔通っていた懐かしい映画館の場所に、自分の映画のポスターが貼られて、映画情報にラインナップされて、自分自身が立って観客の皆さんに向かって話をしていることは、本当に嬉しく思います。
情報BOOK■2010年には「ソフトボーイ」と「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」の2本が上映されましたね。
豊島■この2本は、私にとってターニングポイントになった作品だと思っています。それまでホラー映画を作ることが多かったので「豊島はホラーが得意らしい」というイメージがどうしても付いて回る、これを取り外したかったんです。それが2010年の2作の映画を発表できたことで、豊島圭介がどんな分野の映画にも対応できる、つまりニュートラルの立ち位置でいられる、理想的な状態になれたように思います。
自身を分析すると、豊島圭介はアーティストというより作家気質。何にでも柔軟性を持って向かっていけることが自分の特徴だと思っています。それを生かしてこれから様々なジャンルの作品を創り続けていきたいですね。
常にいろんな情報を吸収したくて、何本もアンテナを張っていることが習慣のようになっているんですが、まったく違うジャンルの内容だと思っていても、それぞれが影響し合ってくるから面白い。それらが化学反応を起こすみたいに新しい可能性が生まれるんじゃないかと想うんです。
「ソフトボーイ」と「裁判長!・・」は、全く違う会社が制作しているもので、創り方もそれぞれに違いますが、豊島圭介のフィルターを通すことによって、豊島色として仕上がっていると思います。皆さんにもそれを感じて頂けたら嬉しいですね。
情報BOOK■これから撮りたい映画は?
豊島■具体的に言えば、「こうしたい」と企画を温めているのものはいろいろありますが、大きくいってしまえば「より多くの人に届く作品を作りたい」という気持ちです。豊島圭介が皆さんに認知して頂いてこそ、自分のやりたいことが実現できる。そんな想いが強いので、今はジャンルに限らず、いろんなものに挑戦したいと考えています。
「ソフトボーイ」は佐賀県を舞台にした映画なんですが、この映画作りを経験して、地方で映画を作る面白さを実感しました。これから機会があればいろんな地域での映画作りにチャレンジしてみたいと思っています。
情報BOOK■浜松での映画創りも期待できそうですか?
豊島■そうですね。夏でもひんやり涼しい竜ヶ岩洞や、高校時代にボート部の練習で通った佐鳴湖など思い出もありますが、正直故郷である浜松のことは知らないことばかり。
他の監督やカメラマンが浜松を舞台に製作した作品を観て、「ここも浜松なのか」と改めて知ることのほうが多いくらい。「裁判長!…」で出演してくださった女優の鈴木砂羽さんも浜松出身なので、撮影のときには、ときどき浜松の話をしていたんですよ。
浜松に限らず、「その土地の魅力は何なのか」と考えると、そこに暮らす「人」がポイントだと思うんです。「この地域が好きだ、もっとよくしたい、こんなにいい場所がある」そんな熱い想いを持った人たちの郷土愛の力、それが魅力なんじゃないかと思いますね。
私も帰省するたびに、地元浜松への熱い想いを語ってくださる方にたくさんお会いします。そんな方たちから放たれるオーラみたいなものが浜松の魅力。いつか一緒に仕事ができたらいいですね。浜松にはブラジル人も多く住んでいますから、そうした外国人の視点で浜松を見つめ直すのも面白いかもしれません。
情報BOOK■豊島監督の作品をこれからも楽しみにしています!
豊島■自分の作品を観て、感動して、「自分も映画を作ってみたい」と思ってくれる少年たちが出てきてくれたら嬉しいですね。「ちびっ子に夢を与えたい」と語っているスポーツ選手の気持ちが、この頃、少しだけ分かるようになりましたよ(笑)。
2010年12月インタビュー