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特集

【特別企画】浜松情報BOOK監修委員が語る 『浜松の魅力』

浜松情報BOOK

浜松情報BOOK監修委員が語る
『浜松の魅力』
~浜松市のこれまでを見つめ、今後を考える~
日時/2011年7月12日 場所/浜松市民協働センター


浜松情報BOOKの掲載情報は、浜松市地域資源情報整備事業監修委員会を設置し、委員の方々のご意見やアドバイスを参考に作成しております。今回、監修委員会開催時に、改めて委員の皆様から『浜松の魅力』についてお話を伺いました。内容の一部をここにご紹介させて頂きます。

佐々木崇暉さん鈴木正之さん須田悦生さん冨田晋司さん
写真左から 佐々木崇暉さん、鈴木正之さん、須田悦生さん、冨田晋司さん

 

【監修委員長】
佐々木崇暉さん 静岡文化芸術大学名誉教授、浜松市史編さん執筆委員会副委員長 
 

【監修委員】
鈴木正之さん 浜松市史編さん執筆委員、元浜松市中央図書館指導主事 
須田悦生さん 静岡県立大学名誉教授、元静岡文化芸術大学教授 
 

【監修委員会事務局長】
冨田晋司さん 静岡文化芸術大学 文化・芸術研究センター調査員

 

浜松の産業発展は、地域のなかから実現した

【発言者以下敬称略】

佐々木■私は「ものづくりの街」として、浜松を産業的な視点で見つめ直したとき、浜松の産業発展には三つの特徴があります。一つ目は「内発型発展」という特徴で、地域内で蓄積されてきた経済的諸資源(ヒト・モノ・カネ)の活用によって産業が起きてきたことです。二つ目は、既存の産業が時代の変化にともなって新たな産業を生み出し持続的に発展してきたところです。例えばテイボー株式会社さんなどは、帽子に始まり、ペン先製造、MIM(金属射出成形法)と、時代の変化に対応しつつ持続的に発展しています。この持続的な発展をみると、まったく新しいものを取り入れるのではなく、先行して蓄積した技術や経験を新しいものに結び付けていくことで発展してきています。三つ目は、複数の産業が相互に関連を持ちながら併存し、地方都市でありながら複合的な産業構造を形成しています。このような特徴をもった産業都市・浜松は、地方都市としてさまざまな制約を受けていると思いますが、そのなかで、世界的に発展した企業が数多く、厚みのある産業構造を創り上げてきた、そのことを浜松はもっと誇りに思ってよいと思いますね。
戦後は、織機や金属加工業などの先行産業を土台に、オートバイや自動車などの輸送機械工業が大きく発達し、加工組立による量産化が進んだことで、私たちは大きな経済的恩恵を受けてきました。しかしこうした産業構造は、90年代のグローバル化と先端産業化といった時代の変化の中で、現在大きな曲がり角に来ているといえるでしょう。こうしたなか、これからのヒントになるものは、ものづくりを発展させてきた根底にあるソフトの部分(ヒトの感性、熟練技、目利きなど)ではないでしょうか。
例えば楽器では、技術力によって量産化が進む中にも、熟練した匠の技術が無くては上質な楽器は生まれません。どんなに機械化が進んでも、生きた木材を扱うには微妙な感覚を見逃さない人の感性がとても大事になると思います。浜松ならではの染色技術である「注染(ちゅうせん)」も、わび・さびを感じる独特の色合いには熟練職人たちの技が大きなポイントです。また、ハイテク製品もさまざまなローテク技術(熟練技)に支えられています。情報BOOKには、「こんな品が作られています」という紹介だけでなく、その奥に秘められている人の息づかいを感じるソフトの部分などに意識を向けてご紹介していけたらいいですね。

 

地域の人間力を自負したい

鈴木■私も人間への注目が大切だと思っています。浜松市制百周年記念の際に、百年前の新聞を展示したのですが、それを改めて見直してみると、浜松がこれほど発展した理由は人間力だとつくづく思いました。浜松には大きな港もなく、エネルギー原料である石炭などの資源もない、交通網が未発達なときにはまだまだ不便な地域でした。そのなかで、企業が大きく成長していったのは、例えば池谷七蔵や宮本甚七など、地域のために力を注いだ「人」の存在を見逃すことはできません。こうした人達が中心になり、技術者が集まり、浜松の産業が発展していったのです。これまでの人々が創り上げた歩みを、産業観光などの視点から、皆さんにとって身近に感じられる紹介の仕方ができたらいいですね。
県庁所在地でなく、政令指定都市の認定を受けたところは珍しいことです。そして80万人規模の都市に、これだけ多くの世界的企業が存在していることも自負していいことだと思います。以前、ドイツの小学校を訪れたときに、私の鈴木(Suzuki)という名札を見た子どもたちが、企業の「スズキ」を発想して盛り上がっていました。ホンダやスズキ、ヤマハの世界的な知名度はすごいことです。住んでいる私たち自身がもっと自覚したいものですね。

 

自然、農林業、芸術・文化など、多彩な魅力を活かそう

須田■スリランカでは、ヤマハというと船外機の代名詞になっていると聞きます。これほど工業製品に関して世界に知名度のある浜松ですが、県外出身の私には、それ以外にも実に多くの魅力があることを強く実感しています。住んでいる人たちがそのことにあまり気づいていないことは、とてももったいないと思いますよ。
浜松宿は静岡県内の東海道の中でも、宿屋が一番多かった宿(94軒)で、東西からいろんな人たちが行き交う分、情報集積の場所となり、それが大きな財産となり、やがて近代のものづくりの街として発展してきました。近代以前を振り返ると、多くの人たちが漢詩や和歌、俳諧(俳句)、古典、囲碁をたしなみ、遠州国学の中心地として学者層も多かった地域でとても文化度の高いところでもあったのです。そんな素地があるのですから、これから、文化都市としての地域の魅力を再発見していくことも大切ではないでしょうか。文化都市といっても、それは音楽だけではありません。浜松を中心とした遠州地域は、農業文化、水の文化、森林文化、暮らしの中に息づいた芸能文化など、それは多彩な魅力が実に豊富な土地柄です。具体的に芸能の分野を見てみると、天竜川流域や太田川水域を中心に、舞楽から神楽、猿楽、田楽、能・狂言や歌舞伎・人形劇、さらに現代ではオペラ、ピアノコンクールまで勢ぞろいして鑑賞することができます。「文化面がまだまだ低い」と指摘される方もいらっしゃいますが、浜松演劇鑑賞会の会員数は全国でもトップクラスですし、クラシックなどの芸術鑑賞を楽しんでいる人は、想像以上に多いです。浜松を中心に、またさらに三遠南信エリアへと地域を拡大していけば、大きなひとつの発進力になるはずだと思います。
そして、改めて景色の美しさや食の文化を活かしたいですね。浜松は海、湖、川、森に恵まれ、北遠地域の川辺、浜名湖や舞阪港などの自然都市としての魅力発信ができるだけでなく、新鮮な魚や農産物も種類が豊富で美味しい。うなぎだけでなく、多様な顔をもつ大都市だというウリをPRしていきたいですね。

 

老舗商品も浜松の底力の象徴!

冨田■たとえばエシャレット、セロリ、たまねぎ、とらふぐ、みかんなど、全国に誇る特産物は本当にたくさんあります。でもそれらがすぐに東京や大阪など大消費地に送られてしまっているため、地元の人が産物であることを知らないことも多いといいます。これは勿体ないことですね。
産業についても、最近では地域の企業を見学できるツアーが人気とのこと。大きなものづくりの歴史を形成した浜松には、出来上がった品物だけでなく、造る工程や造る人を通して感じる魅力がいっぱいあるのだと思います。そして、佐々木先生のおっしゃる内発的な産業という話でいえば、産業を盛り上げていく過程では、名を残す中心人物に、地域の有力者たちが力を貸し、銀行などの地場資本が支援しました。ヤマハなどの楽器の発展についていえば、学校にオルガンやピアノを導入していくなど、教育機関との密着が成長に大きな後押しをしたともいえるでしょう。このように地域がお互いに協力しあい、盛り上げてきた歴史が大きいといえますね。

 

佐々木■当時、浜松の三大会社と呼ばれた、帝国製帽(現在のテイボー)、 日本楽器(現在のヤマハ)、木綿中形(現在の日本形染 )の草創期をみると、この地域に根付いていた報徳思想が大きく影響したと私は思っています。当時の人々は、時には自分の財産や技術を提供しながら、地域のために尽力し、さまざまな経営に参画して努力してきました。この精神があったからこそ、大きな成長を実現することができたのだと思いますよ。

 

冨田■谷島屋、笠井屋、鍋屋、かすみやなど、長年続く老舗商店も浜松の底力の象徴です。いまや浜松商工会議所の会員数は全国でもトップレベルですし、浜松信用金庫の業績も全国の信用金庫の中でもベストテン以内を誇るといいます。図書館も市内に23館という数を持つのは珍しいことですし、蔵書管理方法も全国の模範となっているほどです。
見ていくと、私たちが見逃している浜松の魅力はまだまだたくさんあるようです。改めて、「浜松」のひとつひとつを見直して、今後に活かしていきたいですね。